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2022/11/27 12:21


先月が例になく忙しく、寝具相談のご依頼やリフォームや羽毛布団のご用意など、
私もこの数年忘れていた感覚を取り戻すかの様にお仕事を進めておりました。



今月に入ってもその余韻が抜けず、どうしても文字が書けない。。
頭の中のアウトプットができない時期が続いていました。
1年の中でも必ず1度や2度やってくるのですが、この時期に何やっても仕方ないから
「ただ目の前に転がる仕事をやり続ける」というモードに頭のスイッチを切り替えます。

皆さんにもあるものだと思いますが、私の場合この時期は要注意で、
「頭の中の栄養がスッカラカンだぞー」っというサインなんだと思っています。
数ヶ月文字が書けない、絵を描こうとしてもうまくいかない。。
アウトプットというもの全領域において駄作に感じてしまう。
いつもそんな時期がどうしても到来してしまうのです。
といって元々そんなに大それたものを作っている訳でもありませんが、
その時期は私なりに前に進むことができない辛さというのを感じてしまうのです。

ただこの歳になってはその対策をしっかりとることができていますから、
こうやってまたPCに向かって文字が書けるまで、頭の中のゲージが回復している訳です。
それではどうやって回復させるのか、私の場合大きくは2つです。

①旅に出る
②本を読む(=人に会う *たくさんの方に会うのが辛いこともあるので限定的)

①については幸い、この生業を通して遠方からの寝具のご相談がございますので
その際に近くで見て回りたいものをついでに見て回り、いただいた利益全てを
その場所に置いて帰るくらいの勢いでしっかり食べて、寝て、遊んでから帰路につきます。

普段から私のグーグルマップには日本中、行ったみたいピンだらけになって
地図を引きにしてしまうと最近少し見づらくなっているほど。。
人と会ってお勧めされるとすぐに行ってみたくなるので、ピンの場所が
もはやいつ誰から教えてもらった場所やお店なのかも分からなくなっています。

先月は熊野から堺まで、紀伊半島をぐるっと旅したことと、
先週は東京でご依頼をいただいたことをいいことに。
都内から高崎までを行って帰って行きたい場所と会いたい人に会ってきました。
これによってかなり回復しました。本当に一人旅は私の人生に欠かせない大きなパーツになりつつあります。



また、今年は訪欧を断念しましたが、来年は為替や戦争のことが落ち着いてくれれば
以前から行ってみたかったスイスを中心に陸路で回ってみたいという欲があります。
ピーター・ズントーとピーター・メルクリいう建築家の作った建物を見てみたいのです。





もちろん本業も忘れません 笑 
スイスの寝具メーカーも1社新しくチャレンジしたいと思っていますので
合わせて工場を見に行ければと思っています。

そして②についてです。
本を読む。ということとおそらく私の中ではイコールなんですが、
人に会う。というのも同じことと考えています。
ただ本の場合は作者とは立場が違いすぎますし、
すでに存命ではない絶対に会えない人ということもありますから
その人たちの言っていることを聞いておきたい。という具合で活字と接しています。

私がそもそも本を読み始めたのは20代の頃にハマっていた麻雀が強くなりたい!
ということと、当時は電車通勤でしたからその時間を有効に使ってみたいと思い、
20代後半にしてちゃんと本を読み始めました。といっても趣味の本ですから、、
でも今思うとそれが良かったのかもしれないと思います。もうお亡くなりになっていますが
小島武夫さんという有名な雀士の方の本で。タイトルはもう忘れてしまいましたが
麻雀だけでなく、そこを通しての人生観まで書かれているようで。
本当に強くなったと錯覚するほどの影響を受けました。本当に良い本でした。

そんなある日、新しい知識欲の湧いた私はある先輩に次に何を読めばいいかを聞きます。
その時に出てきたのがこの本です。



池波正太郎さんという昭和の劇作家で、時代物を得意とした方なのですが。
代表作ではTV放映された鬼平犯科帳などの作者でもありますね。

昭和の文豪の中では必ずお名前の挙がるほどの方ですが、
私が勧められたのは時代劇ものではなくエッセイでした。
記憶が確かなればお亡くなりになる6〜7年前に書かれた本ですから
黄金期も過ぎ、なんとなくの人生の終を見ている時だったのか
自身の身の回りのことを軽く教えるように書かれている「男の作法」という本です。
今では倦厭されるタイトルですが、すでに彼はこの時に全ては私が生きた時代のこと。
っという注意書きが添えられていて、今の社会バランスを予見していたようなことも書かれています。

内容はうまい店の選び方から、常連になるまでの作法。食べ方、お酒の嗜み方など
筆者の思うことが主観で書いてあるだけの本なのですが、これが実に面白いのです。
薄い本ですから必要以上の言葉がなく。さっと読めてしまう内容に止めてあるだけでなく、
なんとなく全て次世代に向けて書いてあるような口調で優しく諭してくれています。

有名な一節には「てんぷら屋に行く時は腹を空かせて行って
親の仇にでも会ったように揚げるそばからかぶりつくように・・・」
というキャッチーな表現があったり。かと思えば生や死や病気について。
彼独自の観点からテーマごとに短く語られています。

これを読んで私も変わったと言えばそうかもしれないほど、当時の私は影響を受けました。
「旅」という項目もありますから、これについても御多分に洩れずということかもしれません。

序盤は食べ物のことが多いのですが、料理の説明になると途端文字から風味や香りがして
暖かい湯気や香気が感じられるほど、頭の中にその料理の想像ができるのです。
言い回しや表現の仕方が素晴らしく、彼が描く時代劇の中でも料理の場面が多く出てきて
小説を読んでいても美味そうに食べる主人公を羨ましく思うほどです。


*これは行きつけのお店で先日食べたキノコ鍋。全てオーナーさんが採ってきた新鮮なもの。

20代後半でこの本と出会い、既に6、7回同じ本を買っています。
というのも、、私の先輩が若かった自分に教えてくれたように
今まで出会った後輩にこの本をあげてしまってはまた買い直しています。
自身が「もっと若い時にこの本に出会っておきたかった。」という勝手な思いもあるのですが、
あげてしまっても読んでも読まなくとも、その時が来ればいずれ読む時が来ますから
全ては縁とタイミング。あげてしまえば私はどちらでもいいのです。

これを聞いて鬱陶しい奴だ、、っと思われることもあるかもしれません。
優しさの押し売り。っと言われることもありますが、自身は見返りが必要ありません。
他者に過度な期待や評価をしないからかもしれませんが、人は植物に近いものと思っています。
花や実が成るものもあるので、そうでないものという提起にしておきますが、
犬や猫のように懐いたり、リアクションがあったりもしませんし。
植物は何より人の「思い通りにはならない」ということだと感じています。



水をあげるタイミング、肥料を入れるタイミング。
鉢を変えたり、土を変えたり。大変な作業がありますが全く見返りはないのです。
大きく育てたいのか、その木なりでいいのか。その目標も様々。
自然に返すことも、他者に引き渡すことも、見放すことも。
全て「愛」の形が分かりやすい形で葉や根に表情として現れます。
そして毎日注意深くみていないと分かりにくいほどの少しの変化なんです。

私自身、先輩たちから本を貰ったり、ぽいっと投げてある本を勝手に呼んだり。
そんなことから本の世界と繋がったので、きっかけはなんでも良いと思っています。
彼らが私に水やりをしてくれたように私もその真似を始めています。

そして最近、自分の本棚を見た時にこの本がないことに気づきました。
きっとまた誰かにあげてしまったんだなっと思ってすぐに買い直しました。
人も本も同じようなものと私は定義していますが、何度会っても飽きない人。
何度遊んでも楽しい人。いつ会っても新鮮で強い風味や香りを近い距離で残してくれるような。

「1年365日で365冊を読むようにしています」っという方もいらっしゃいますし
1日にそれ以上のペースで本を読む方もあると思います。ただ、私と本の向き合い方はいつもこうです。
いつ読んでも、いつどのページを開いてもフレッシュで。心地よいもの。
1冊で100回読める本と残りの人生で何冊と出会えるのか。
こう思うのです。

それは先ほど言った人と会ったり、話したりと同じで。
同じ方と何度遊んでも飽きないし、会って楽しい人との会話が好きなんですよね。
100回会える人とあと何人出会えるだろう?っといつも感じるのです。
これが私にとってのクラシックであり、私のソースになっていく感覚があります。



クラシックとは伝統。伝統とは受け継がれるものになります。
鮮度や風味が強いその人たちはいつも楽しそうで。
次世代に残る何かを手探りで模索している。そんなチャレンジングな人。
その方たちが作り出すストーリーを一番近くで見ていたいのでしょうね。

私も本はそこまで熱心に読む方ではありませんが、
これからも100回読める本をずっと探していきたいと思います。
活字が苦手という方もサクッと読めてしまう本ですので、
「男の作法」もし興味があれば読んでみてください。
店頭の本棚には置いておきます。貸し出しもOKです。
なにかあればお声がけください。




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