寝具相談のメッセージをいただき、Zoomにてご相談をお受けすることになりました。
和歌山県の渓谷山間部で熊野市に程近い集落にお住まいの方で、
室内の湿気が高いことによってカビの発生や、寝具や寝環境への影響があり
ご相談者の奥様は五十肩や肩こりなども併発している状態だと伺いました。
まずは現状のお聞き取りをしながら、特にお急ぎで無いとのことでしたので
素材やその役割などをお話した後に一度お見積りをお出しすることになりました。
お見積りをお出しした後にご来店もいただけるとのことで、
そこから2ヶ月後に和歌山からご来店をいただき、
あれこれ直接ご体感していただきながらお話していると。
それまでお見積りにはなかったスリットエレメントという調整寝具と、
当店おなじみのウールパッドの上位機種であるヴォルフ（ヘビータイプ）という
厚地のウールベッドパッドの寝心地を気に入っていただくことができました。
通常のウールパッドの下に同量のウールが配置されているもので、
下層はニードルパンチという加工によりしっかり固められているものです。
ご提案した寝具の中でも特に特殊なエレメントは、日本では馴染みのない寝具です。
と言っても当店で扱う寝具の中にお馴染みのものはないのですが、、、その中でも特にと言っておきましょう。
一般的なウッドスプリングというベッドフレームに備え付ける弓形の調整寝具は
皆様の中でもなんとなーく見たことあるかも。っとなるかもしれません。
勘違いされやすいのですが、このウッドスプリングとエレメントはシステムが全く異なります。
まず何が違うのか、ですがウッドスプリングはパーツとしてはスノコのようなフレームの一部になり、
ほとんどの場合、後からの単体購入や床置きでの使用ができないものになります。
フレームを購入される際には通常のスノコか、ウッドスプリングか、
どちらかを選ぶというオプション的な寝具になりますね。
（当店でもドイツのシェララフィアのフレームを選択すると当店でも
ご購入いただくことはできますが、当店での導入実績はありません。）
一方、エレメントは単体で購入が可能で、床置きでの使用も可能になります。
今回のお客様の例では寝室の大きさに限りがあるということと、
ご家族３人がその中で別々の寝具をお使いになるとのことで、ベッドフレームの導入は難しく
すべてを畳の上で床置きの状態で使用されるご提案をさせていただくこととなりました。
もう一つの特異点はウッド部分の形状です。
弓なりになっているのがウッドスプリング。木が持つしなりのみで硬さを調整します。
エレメントはウッド部分はフラットで、それを支えるクッションの多くはマットレスと同じ
ラテックス（天然ゴム）になります。木のしなりに関してもより自然の感覚に近く、
天然ゴムのクッションが優しくスリット部分を支えていますので、
使用時に裏から見ると、一つ一つのバーが個別で動いていることがよく分かります。
そしてさらに全く構造が違うのが、ウッドの素材構造です。
ウッドスプリングはそのほとんどが合板（薄く削いだ木材を接着剤で固めたもの）です。
塗装もウレタン塗装がかかっていて、湿気や水分を吸いにくいものです。
合板は木材としての粘りやしなりがないものなので、
弓なりに整形しないと意味をなしませんし、割れてしまうとパーツ交換ができないものが多く
強度に関しても私自身は多少懐疑的です。
＊過去に回収したウッドスプリング機構を見ると、長年使用にちょっと不安があります。
＊比較画像左がエレメント 右がウッドスプリング（過去に回収したもの）
無垢材か合板かで自然な木材のしなりが感覚として変わります。
対してエレメントで使用する木材はブナやポプラの無塗装無垢材になります。
比較的柔らかい素材で、独特のしなりや粘りを持っているので人が寝たときに
木材の硬さよりも適度な反発性を感じていただくことができます。
そして木の板の枚数とクッションの位置を調整することで使用者の
背骨のラインに合わせた構造を上のマットレスに持たせることができます。
＊木部分は１本が折れてしまっても交換が可能になります。
現在、日本の寝具では主流なスプリングコイルマットレスは２０〜３０cm厚が主流で、
元々エレメント等の調整寝具の使用ができません。ウッドスプリングも実のこと
金属のこれだけの厚みのスプリングコイルの下に使用してしまうと変化は感じにくくなります。
当店ではエレメントを使用する際には１０〜１５cm厚のノンスプリングマットレス（ウレタン・ラテックス）
を使用して設置することがほとんどです。なるべく人間の体にとって違和感のないもの。
主に筋肉の質感に近い素材をチョイスしていきます。
その意味でも今回のように（下から）エレメント・マットレス・ウールパッド・BOXシーツという
組み合わせを使用して仕上げていくケースがほとんどになります。
湿気の多い気候に合わせたチョイスと、現代人が抱える睡眠時間の短縮化傾向にて起こる
「浅い眠り」が心と体のストレスを軽減化できないという構造的な社会問題にコミットすること。
プラスして現在表面化している日本が直面する長高齢社会と、世代構造のねじれ。
実労働層の個のパフォーマンスがより求められ、勤務時間は伸び、睡眠時間は削れていき。
一人二役以上をこなすことのできる人は社会からもっと質を求められていきます。
その時に「効率化」ということが謳われますが、意識のない時間にはなぜか意識がいかない、、、
という寝具屋にとって悲しい現実は今後も変わらないと思いますが。
こうやって必死に抵抗しているわけですね 笑
恐らくですが、今回のご依頼主の女性もこういった点に面白みを感じていらしゃったのだと思います。
後から話を聞いてびっくりしたのですが、この方も元々は千趣会というカタログ通販の会社で
バイヤーとして、商品開発を手がけていた方だったので生地や糸、素材に関してのお話の際に
すっと理解していただけたので、お話を進めながらいい意味での違和感を感じていました。
「素材」「鮮度」「加工」いつもこんなことを言っていると料理のような感覚になりますが、
イメージとしては「お塩のままどうぞ。」っというのが私の考える理想の寝具のような気がします。
下ごしらえをしていただくメーカーさんの協力と、それを組み合わせて料理にしていく私という存在。
これがお客様の生活にどんな影響を及ぼすことができるのかを実験していこうと思っています。
今回ご依頼者であった奥様の寝具はエレメントを合わせたものを。
しかもカバーのご要望は全て無線色のフレンチリネンをお選び頂けました。
息子さんは近々でお引越しのご予定があるとのことで、軽く暫定的な使用ができるものを。
旦那様は元々気になる寝具があったようで、そちらを別でご購入されるとのことで
残念ではありましたが、そればかりは仕方がありません。なるべくお客様の意向に沿った
寝具のご提案をこれからも続けていこうと思っております。
今回は深夜から愛知を出発し、次の日の朝に熊野市に到着しておきたい理由があって。
ここからどうしても朝日を見たかったのです。とても綺麗で１時間ほどウールのブランケットに包まれて
miltonのボトルに入れてきたコーヒーと共に。ぼーっと波の音を聞いていました。
釣りをしている方がちらほらと、海外からの方がドローンで撮影をされている以外誰も人はいません。
もしお近くにお越しのことがあればここは非常にオススメのスポットです。
搬入を終えた後は次の日に大阪府堺市での搬入でしたので、串本に宿を取ることとし、
朝のうちに移動を開始して午前中は白浜の南方熊楠記念館へ。和歌山ラーメンを食べてから
ゆっくりと堺に向かいました。またこちらもご報告させていただきます。
今回導入の寝具の詳細は下記へ。
Milfi100 ラテックスマットレス S ￥９３，５００
Milfi エレメント S ￥９９，０００
Billerbeck ウールパッド（ヘビー）S ￥６３，８００
NISHIKAWAアレルウォール敷布団 S ￥３３，０００
Billerbeck ウールパッド S ￥３８，５００
オーダーメイドまくら × ２個 ￥２４，２００ ×２
オーダー掛けカバー KK加工 フレンチリネン６０番手 SL × ２枚 ￥３７，４００ ×２
オーダーBOXシーツ フレンチリネン４０番手 S（全周ゴム） × ２枚 ￥２３，９８０ ×２
オーダー枕カバー フレンチリネン４０番手 ファスナー式 × ２枚 ￥５，９４０ ×２
