今年も暑い日が続き、来年のことなど考えたくもないのですが・・・
そんな中でも日が落ちてからはそろそろ秋風を感じることもあり、
夜は涼しく感じる日もポツポツと出てきました。
東北にお住いのお客様からはそろそろキャメルケットの
出番が近づいてきたとご連絡がありました。
店頭においても掛け布団やケット類に関してのお問い合わせや
ご来店も増えてまいりましたので掛け布団について少しご説明しておこうと思います。
当店ではお一人お一人の生活環境をお伺いし、その方の生活スタイルと
それぞれのリスクにフィットする寝具の提案を行なっております。
特に羽毛布団は既製品に近いお値段で1枚1枚作成ができます。
お時間はいただきますが生地・縫製・充填までを店主が視察を行った
国内の工場でお仕立てし、お渡しをさせていただくことが可能です。
まずご相談をいただくと生活環境のお聞き取りからスタートします。
ご購入の相談をいただくといきなりお布団の説明やお勧めは行いません。
ご予算・家族構成・家屋環境・生活リズム・アレルギーの有無・
睡眠リスクの有無・発汗量・お好きな生地の感覚などなど
あらゆる条件をお聞きしてからこちらである程度整理して
ご提案を開始させていただきます。
なぜなら羽毛布団は条件の組み合わせで作成パターンは無限に存在し、
本当の意味でその方に合った羽毛布団は既製品では存在し得ないからです。
量販店などでも消費者が見て分かる範囲は暖かさレベルなどのイラスト表示と
価格の2つの条件から選ぶということしかできません。
羽毛布団の素材はかなり細かく調整ができ、そもそも
1枚1枚作成していくというのが向いている寝具だと思っています。
ご存知ない方も多いですが掛け布団は季節に応じて
使用するものを変えていくというのが本来です。
夏でもクーラーを付けっぱなしで冬用の羽毛布団を使用しているという方も
いらっしゃるので一概にこれがルールというわけではなく、
それぞれの生活環境にあったお布団を用途によって使い分けて
より良い「快適」な睡眠を得るというのが掛け布団の考え方になります。
まず羽毛布団にも数種ございますのでこちらからご説明します。
羽毛布団の種類
(本州の寒冷地を除く)
①薄掛け・ダウンケット(5月〜9月)
春夏用 充填量0.3〜0.4kg
②合い掛け(3月〜5月・9月〜11月)
春秋用 充填量0.7〜0.9kg
③本掛け・厚掛け(11月〜3月)
冬用 充填量1.1〜1.3kg
もちろん羽毛の種類や質によって左右されますし
使用生地・キルトパターンによっても変動するので
おおよその目安としてみていただけるといいと思います。
俗に言う「合わせ布団」(デュエットタイプ)と言うのは
①+②=③という使い方になり、3種類を網羅するものになりますが
最近では③の使用をしなくとも条件によっては
②と③の中間1枚だけで済んでしまう場合もあります。
当店の羽毛布団以外のケット
・タオルケット(春夏用)
・ウール・キャメルケット(春秋冬用)
・シルクケット(オールシーズン)
というラインナップで取り扱いをしております。
この時期お問い合わせが増えるのは合い掛け、もしくは本掛けの作成依頼です。
もちろんお手持ちの羽毛布団をリフォームされるということも多い時期になります。
羽毛布団いついては何度かお話しさせていただいていますが、
今回は詳細な仕様の違いを中心に正しい使い方と選び方を中心にお話しできればと思います。
しかも2000年代に入ってからは日本の家屋状況の変化があり
それに伴って羽毛布団も変わりつつあります。
何かというと多くは建物の「気密性」です。
近年は密閉性能が高く、外気温に影響を受けにくい家屋が増えてきています。
暖かさレベルを頼りに「とにかく温かいものを」とお買い求めになった商品が
実のことオーバースペック状態になっているということは往々としてあることですし、
その予算を他の条件に回して「快適さ」を追求することもできます。
羽毛布団の条件は大きく下記の4つです。
①側生地
②キルトパターン
③羽毛の種類・質・充填量
④掛けカバー
私はこの順番で決めていきます。
人間に「快適さ」をもたらす順番と考えていただければいいかと思います。
一般的には③の羽毛(ダウンの質)を気にされる方が多いですが、
中国産かポーランド産かはたまたシルバーかホワイトか
グース(ガチョウ)かダック(アヒル)かなど
布団屋でも目隠しをされれば布団に入っただけの状態で
その違いが瞬時にわかる方はいらっしゃらないと思います。
当然1日寝れば暖かさの違いもあるのですが、
乱暴に言うと価格差は耐久性の違いと思っていただければいいと思います。
その意味でも人間に一番近くて睡眠中の睡眠深度に影響する
側生地からその方に最適なものを決めていきます。
①側生地について…
日本の量産品の羽毛布団は側生地に
綿85%ポリエステル15%(通称TTC)を使用する事が多いです。
理由は簡単で「価格を抑える為」です。
近年ではポリエステル100%の側生地も登場しています。
立体マチに使用する部屋の区切りも安価なものはPEタフタを使用していますが
当店ではすべての製品に通気性のいいメッシュ素材を使用しています。
正直見えないところなのでどうでもいいのですが、
羽毛自体は生き物から取れた天然素材です。
湿気を吸ったり吐き出したり「呼吸」をしている状態ですので
通気性というのは羽毛布団の能力を引き出す上で必要な事です。
当店は側生地も綿100%しか使用しませんし、
生地・縫製に至っても国内生産でお願いしています。
あまり言いたくはありませんが、多いケースとしては、、、
中国で側生地を作成して日本で羽毛を吹き込めば日本製になりますから
国産品として堂々と販売できることになります。
*縫製のみ中国と表記しているものもあります。
私は一概に中国製が嫌いな訳ではありませんが
コストダウンの為の事に限って言えば消費者目線でモノづくりは
されていませんからできるだけに遠ざけておきたい商品です。
縫い子さんやメーカーさん達のモチベーションや
基本的な倫理感が全く異なるので目に見えない
気持ちの話は言ってもあまりしょうがないです。。
逆に我々が見ているポイントがあります。
それは・・・「運針」と呼ばれるステッチの細かさです。
当然ステッチが細くなれば沢山の糸を使用する事になります。
それを荒くしてしまえば安くする事ができます。
しかしその影響は「耐久性」というところに時限式で現れてきます。
特に羽毛を包む羽毛布団の側生地は10年から20年経つと使用の状況で
経年劣化によるほつれが出てきたり、ステッチ落ちが発生します。
運針が荒くなる事で劣化スピードが速くなってしまうので
当然コストは高くなりますが、当店は信頼の置ける国内工場にお願いをしています。
生地を構成する「糸」と「生地織り方」によっても違いが生じます。
軽くですが触れておきますね。
糸…
素材にプラスして「番手」と呼ばれる糸の太さを示す単位になります。
番手の数値が上がっていくほど細く軽い糸という事になります。
大まかには40番手・60番手・80番手・100番手。
またそれ以上という事も可能ですがあまり細すぎても羽毛布団には
ダウンという中身が存在しますので、吹き出しと耐久性のバランスを考えなくてはいけません。
1本の線維の束からなる「単子」と単子を撚った「双糸」がありますが
高価で生地が重くなることから双糸は使用しないのが一般的です。
細番手の双糸も存在しますが、かなり高級な生地になります。
生地の織り方…
平織り…1本の経糸に対して1本の横糸が前後して走り、
生地の組成とすると一番単純な織り方と言っていいと思います。
羽毛抜けが発生しにくい分、生地が硬くなりやすい。
糸の密度(打込み本数)を減らす事ができ、太番手を使用する事で
安価な素材になるので比較的量産品に使用されることが多い。
ツイル…3本が1セットで経糸2本を飛ばして1本を交差させ、
次の横糸では1本をずらしながら織る事で独特の生地目が出る。
平織り糸の浮きがあるのでよりしなやかな素材になるが
打込み本数を上げなくては羽毛の吹き出しが出てしまう。
製品ではあまり見かけることが少なくなった。
サテン…日本では高級羽毛布団に一般的に使用される生地。繻子織りとも言う。
経糸5本を1セットにし、多いところで4本を飛ばしながら織り上げていく為
浮いている糸が多く、最も滑らかで光沢の出る素材。
その代わり糸の密度(打込み本数)を増やさないと荒い生地になってしまう為
羽毛布団の場合、高密度で織られる事が多い。
専門店ではこれをメインに扱う店舗が多く、メインは60番手、80番手の
サテン生地の通称を60サテン、80サテンと呼ぶことが多い。
それ以上の番手で織られた生地もあるがかなり高価になる。
バティスト…考え方は平織りと全く一緒ではあるが、
100番手以上の糸を使用して打込み本数を増やし、
「軽さ」と「通気性」に特化した素材。
平織り生地より高価になるが、通気性のみを考え
吹き出ししにくいギリギリの打込み本数にした生地。
一般的な素材の約半分ほどの生地の軽さしかなく、
製品にすると重みが感じられず、驚くほど軽い。
平織りの一種になるので日本では使用されることが少ない。
ヨーロッパでは高級羽毛布団に使用されることが多い。
②キルトパターンについて…
③羽毛の種類・質について…
ダック…比較的安くダウンボールも短期で安定して大量に取れる為、
イメージ的には安価な商品に入ることが多いが、
中には放し飼いで長期間育て、餌にもこだわる農場がある為
農場を絞れば質のいいものもある。その場合価格差がかなりあるが
一般的には3〜4ヶ月ほどで出荷されるものが多い。
グース…ダックと比べダウンボールが大きく、暖かさと耐久性に優れる。
1年以上育てる農場が多い中、肉食用ではないフォアグラ用のグースは
餌も配合飼料である為比較的安価。放し飼いで穀物飼料を与える農場は
水鳥にストレスのかからない環境で長期間育てる為に高価になるが質のいい羽毛が取れる。
4年以上飼育したマザーグースなども存在するがさらに高価な羽毛である。
シルバー(グレー)・ホワイト…
羽毛を選別する際に純粋なダウンボールに近いものがホワイト、
それに比べダウンボールが小さく純度の劣るものがシルバーと分類されている。
羽毛の質のみを見れば店主は気にしないことが多い。
産地… 一般的に極寒な気候で生き物が存在できるような国に産地が分布していますが
中国(北部)製が安く、東欧系の国のダウンは質も良く価格も高い。
特に食肉文化のあるポーランド・ハンガリーなどは国策として水鳥が管理されているので
良質な羽毛の産地であることは昔から知られているが、近年水鳥の肉を食べる文化が
継承できないこともあり需要に合わず農場が減ってきていることも問題である。
その他の国でも良質なダウンはないかなど模索中。
その他
特殊な羽毛でいうと超高級品であるアイダーダックなども存在するが、
日常的な羽毛布団では必要がないと思っているのでご希望でない限り
作成することはありません。羽毛にお詳しい方であれば
その他にもハンドピック(手選別)やアイダーのようなステッキー性を持った
特殊ダウンも存在します。ご希望によってご提案は可能です。
羽毛は自然のもので毎年価格や産地が多少変化していく為、
当店では価格も安定して入る羽毛を選別して使用しています。
最近では偽装もさながら中古羽毛の再生品を混ぜるケースも報告されていますので
湿度管理された個室でしか検査のできない特殊な羽毛検品施設を持つ工場と契約し、
サンプルチェックをしないメーカーとのお取引を避けています。
ここまでが羽毛布団の詳細な選択条件です。
布団本体だけではなく最後にご提案したいのはカバーです。
④カバーについて…
高品質な羽毛布団をお持ちの方でも最後の条件である
カバーは多くの方にとって盲点だと思います。
体にしっかり沿って空間を塞ぎ暖かさと快適さを保つ羽毛布団が
出来上がっても最後のカバーの選択を間違えると能力も半減します。
逆に言えば長年お使いの羽毛でもカバーによっては使い心地も数段良くなります。
店舗を始める前、寝具界の大先輩が
「カバーはお布団のファンデーション」
だということ教えてくれました。
その際からカバーも全てオーダーメイドで
お作りすることを構想しました。
羽毛布団はカバーを使わず使うと側生地に負担がかかり
吹き出しの原因にもなります。
カバーは羽毛布団にとっては必ず必要なものです。
その意味で日本では布団を汚さないためとの認識があるのですが、
「人間に一番近い直に触れる部分」という通念が海外では当たり前で
羽毛布団にはかなり素材のいいカバーをかける文化があります。
また素材や生地のバリエーションが豊かで目から入る感情も正にポジティブ。
日本とはベッドメイキングやカバーの歴史や文化が全く異なります。
そういった経緯もあり日本では高品質なカバーが手に入りにくい状態にあります。
寝装用の生地は幅が広いので衣料品用の織り機で織ることができません。
幅広の織り機でないと生産ができないのでわざわざ売れにくい
コストの高い羽毛布団用のカバー生地を生産することが難しく、
素材のいいものは既成の海外製品を買うという選択肢が一般的です。
寝装用の生地を別注し、1点1点オーダーメイドで
作成してくれるカバー工場が国内に一つだけ存在します。
その工場に協力をいただき当店のカバーは作成されています。
全ての生地・色目・サイズ・使用など様々な事が可能になります。
と、、長かったのですがここまでがオーダーメイドで
羽毛布団を作成する理由です。同じ環境を持ち合わせた人間が
たくさんいれば別ですがおそらくそんな環境は存在しません。
それが既製品と同じ価格で買えるのであれば
ぜひおすすめしたいという訳です。
価格に関しては本当は1枚1枚作成しますから単価が高くなるのは必然。
当店もその例外でなく、仕入れ値も高くなってしまいます。
ただし問屋を挟まずに全てを工場と直接契約していることと、
私一人でこの店舗を運営していますからその分を利益から削って提供しています。
こんな事をしている布団屋があるかどうかはわかりませんが、
糸や生地から作成したりするのも喜んでいただけるお客様がいるからです。
当然慈善活動をしている訳ではないのですが、
私のできることでたくさんの方のお役に立てれば幸いです。
布団や睡眠のことに関しては曇っていることが多く
難解なだけに伝わりづらいのですが、こうやって私の知っていることで
どなたかの脳内視野が少しづつ晴れれば幸いです。
またご不明な点は別途お問い合わせください。
最後までお読みいただきありがとうございました。